
自分らしい働き方の先で出会ったかけがえのない仲間とともに。一般財団法人ウェルネスサポートLab 代表理事 笠 淑美氏の起業ストーリー

子育てを機に、ご自身のキャリアについて考え始めたことが起業のスタートだったという笠 淑美(りゅう よしみ)氏。その後、同じ未来を目指す仲間に出会い、一般財団法人ウェルネスサポートLabの立ち上げに至った背景には、ご自身の経験が大きく関わっているといいます。今回は起業に至った背景や、事業するうえで大切にしていることなどについて伺いました。
〜プロフィール〜
「自分らしく生きる」をコンセプトに、心身のあらゆる悩みをLINEで気軽に相談できる「フレンドナース」事業を展開。
独立のきっかけは子育てと未来の自分のため
元々設計事務所で働いていらっしゃったと伺いました。
現在の事業内容とはかなり異なるように感じましたが、どのようなことがきっかけで今の事業をスタートされたのですか?
きっかけは子育てでした。それまでは設計事務所で、公園やオープンスペース等のデザイン・設計をしていました。仕事内容はもちろん、職場環境や給与体制にも満足していたんですが、2人の子どもを出産してから状況が変わってきたんです。
設計の仕事にはやりがいを感じていましたが、その分やるべきことも多く、さらに子育てもあり、27歳ごろから未来のことを考える余裕がなくなってきて。さらに小学校に上がれば、誰かに預けられる時間も少なくなります。子ども一人で家にお留守番させることは難しいと思ったので、上の子どもが小学校に上がる30歳という節目に「40代からの自分のために、自分を振り返る時間的余裕がほしい」と思い、個人事業主として独立しました。
自らの経験と看護師の働き方の課題から生まれた新たな事業
個人事業主ではどんなお仕事をされていましたか?
美容業界でマネジメントの仕事をしていました。その中でたくさんの女性から相談を聞く機会があり、「もっと自分らしく働きたい」という声が多くて。理想が叶わない現実にモヤモヤしている方がたくさんいらっしゃることを痛感したんです。同時に、私自身が個人事業主になった理由と同じだなと思って。
私は当時、会社員時代と比べると、同じ収入を得ながらも週3~4回の1日6時間勤務で、時間的余裕があり、余白の時間は自分の健康に気を配りながら、これまで自分がやりたかったこと・やり残したことをして過ごしていました。そうする中で、自然と40代初め頃には場所を設けて起業支援のようなことをしてみたいなと思い始めるようになりました。
その頃に出会ったのが、現在当法人でかかりつけ(フレンド)ナースとして活躍する菊池と、後に資金提供者兼設立協力者となる90代のご婦人でした。菊池は20年以上のキャリアがあるベテラン看護師で、管理職として働いていたんですが「後輩看護師が希望を持てる自由な働き方がないか」と相談に来たのがきっかけです。
この悩みは菊池に限ったことではありませんでした。
菊池は、心をケアする経験豊富な看護師たちが、自分の健康や子育て、家族の看護や介護に悩み、中途離職する姿を何度も目にしてきました。「望まざる離職」に歯止めをかけるにはどうすればいいのかを、菊池と一緒に考えたときに思ったのが、働き方の選択肢を増やすことだったんです。
この相談がきっかけでウェルサポの象徴となる「かかりつけ(フレンド)ナース」のサービスが生まれました。
このサービスの着想は私の原体験にあります。実は私が20歳(大学2年生)の頃に、父が余命宣告を受けたんです。それがきっかけで妹たちも、ナースやケアマネージャーとしてのキャリアを歩み始めました。彼女たちはさまざまな局面で、私の不安な気持ちを日常会話の中で聞いてくれていて、それが私にとって自分らしいキャリアの形成につながったなと感じています。

私に寄り添ってくれた妹たちと同じような存在に看護師がなっていければと。友人のように、日常の中で不安や不調を感じ取って、一緒に改善をしていく・・・。そんな、「かかりつけ(フレンド)ナース」をサービスとして提供できればと、ウェルネスサポートLabの前身となる団体を立ち上げました。
ちょうどその頃、ご利用者のお一人であったご婦人が、その想いに共感してくださって、遺贈寄付という形で私たちに資金を遺してくださり、法人化に至りました。
尊敬できる仲間とともに目指したい未来を創る
事業化するにあたり重要視したことや、
今でも大切にしている思いはありますか?
この事業を「誰とやるか」ですね。どんな事業・プロジェクトにおいても、いい時期もあれば悪い時期もあります。この悪い時期に、同じ方向を向いて一緒に歩んでくれる仲間が誰かというのはすごく大事だなと思っていて。
実を言うと、私は「作りたい社会像」や「次世代に手渡したい未来の姿」は明確にありますが、「これをしたい」というのは全くイメージが持てていないんです。目指したい未来を創り出すことに関われたら幸せだなと常々思っているので、その社会像に向かって共に進む仲間は、第一に「尊敬できる方であること」です。妹二人の存在により以前から看護師というお仕事をとても尊敬しています。
目指す社会づくりに向かって、仲間で最も大切にしていることは、「まずは自分本人がウェルビーイングの実践者、またはチャレンジ中であること」です。
上から目線で相手に伝えるのではなく、支援する人も支援される人も同じ目線に立ち、自分も心身ともに健康でいたいという願いを持ち、それを実践している方と一緒に歩みたいと思っています。
そのためには自分の不調をオープンにしていくことも大切です。日本人は自分の不調を隠しがちですが、不安のない人間なんていないじゃないですか。それを口に出さずにいると、相手も社会も、そういう不安があることに気づけません。

特に育児中の女性は、子どもの体調不良等で休まなければならないけれど、それを言い出せなくてつらい思いをする場面に出くわすことが多いですよね。さらに、看護師という仕事は働き方の選択肢が少ないため不調に陥いりやすく、自分の望む状況になりにくいことも多々あります。
もちろん、受け取る側である職場や社会側も、「声なき声」が存在していることを自覚する必要がありますが、どちらかが無理するのではなく、お互いに歩み寄ることで働きやすい社会を作っていく必要があると思います。
オープンにしていくことが、とても勇気がいることだとはわかっています。でも、働きやすい未来を作っていくためには、そういう言い難いことも口に出していくチャレンジをしてほしいと仲間に伝えています。
もう一つ大切にしていることは、「登場人物=事業にかかわる全ての人がハッピーであること」です。事業を通じて関わる人たちが、みんな心身ともに健やかで、幸せな状態でいられることを目指しています。それが実現できるなら、どんな事業でもお手伝いしたいし、一緒にやりたいと思えるんです。
ー 今伺ったお話は、まさに起業における女性の課題と共通すると感じました。
そうですね、実際に、特に地方においては、男性よりも女性の方が、家庭と仕事の両立に悩む率が高いと感じています。「仕事を取るか、家庭を取るか」みたいな選択に陥ることが多く、望まない退職を選択する看護師を数多く見てきたので、起業においても同様の悩みを抱える方は多いのかなと思います。
足踏みでも、完璧でなくてもいい。進み続けることが大切
これから起業・創業を考えている女性に伝えたいことはありますか?
キャリアに悩む女性にお会いしてきた中で、いつも伝えていることがあります。それは「歩みを止めないで」ということです。前に進めなくてもいいんです。その場での足踏みでも、、、仮に少し横道にそれることがあったとしても、歩みを止めないでほしいんです。
なぜかというと、私自身がそうしてきたからなんですよね。私は30年かけて、少しずつ自分らしい働き方や生き方に近づいてきた気がして。もちろん、今となっては遠回りや横道にそれたと感じることも多々ありました。でもそのおかげで、「一人で完璧を目指さなくてもいいんだ」と思えるようになったんです。
だからこそ、今多くの仲間とともに働くことができていると感じています。欠けている部分があればあるほど、他の人と組むことができるから。
だから皆さんにも、完璧を目指さなくていいんです、と伝えたいです。むしろ、欠けている自分を自分が容認することで、より多くの仲間と出会えるんだと思います。
どんな形でもいいので、自分の「歩み」を止めないでほしいです。それが未来につながると信じています。

■会社概要
会社名:一般財団法人ウェルネスサポートLab
URL:https://www.wellsuppo.r.jp/
所在地:福岡市中央区渡辺通2-9-20-1103
設立:2020年
代表:笠 淑美
■事業内容
ヘルスケア・専門的サポート事業(医療・介護保険外サービス)