失敗からの学びでスタッフも会社も成長。介護事業を展開する株式会社プロデュース 代表取締役 中原亜希子氏の起業ストーリー

福岡県で起業する女性をサポートする「Bloom福岡」では、県内で活躍する女性起業家を交えたネットワークを作り、定期的な交流の場を設けています。今回はこの「Bloom福岡」に賛同いただいている県内の女性起業家である、株式会社プロデュース 代表取締役の中原亜希子氏に、起業のきっかけや事業を広げるうえでの課題、大切にされていることなどについてお話を伺いました。

〜プロフィール〜
北九州を拠点に、地域密着型で認知症特化型の介護事業所を8施設運営。多様な人材が働きやすい組織づくりなどD&I経営を実践。
健康経営に取り組む特に優良な法人として、健康経営優良法人ブライト500に、2022年、2023年、2024年の3期連続で認定。


目次

最初に貴社の事業内容について教えて下さい。

弊社ではグループホームや小規模多機能型居宅介護など、8つの高齢者向け介護支援施設を運営しています。

起業を決意されるまでにはどのような経緯があったのでしょうか?

今の会社を立ち上げたのは、私が29歳のときです。それまではとある会社の子会社で雇われ社長をしていたのですが、親会社が倒産してしまったので、廃業することになって。当時はカラオケのレンタルやメンテナンスを行っていたので、そのノウハウと機材をそのまま活用できる同様の事業内容で、2000年に株式会社プロデュースを設立しました。

そうだったんですね。そこから介護事業に転換されたのはどうしてですか。

一つは事業の将来性を考えての転換です。私は昔から人と交流したり学び合ったりするのが好きで、同じ経営者の方々と交流したり学びを得たりしたいと思い、創業してから2〜3年後に(一社)福岡県中小企業家同友会に入会しました。そこで、カラオケのレンタル業が今後厳しくなること、また2000年にスタートした介護保険制度に将来性があることなど、時代背景をキャッチアップできたことが大きいですね。

福岡市内には各地に中小企業家同友会の支部がいくつかあり、どこか一箇所に通うことが多いのですが、私はいろんなところに顔を出して、さまざまな経営者の方と交流を持つことで積極的に学ばせていただきました。三役や理事などの役職を経験させていただいたことも、組織を作るうえでの学びになっています。個人でもランチェスター経営について勉強するなど、とにかく積極的に人と会い、学ぶことを大切にしていました。多分それがないと、今の会社の姿はないと思います。

ー 人との交流と学びを通して事業転換されたということですが、そこから現在展開されている高齢者向け介護支援施設の運営に至るまでにはどのような経緯があったのですか。

最初は介護保険を使った介護用品のレンタルからスタートして、その後、住宅改修やリフォーム事業にも参入していきました。その中で出会った広島県のとあるグループホームに衝撃を受けたことが、現在の高齢者向け介護支援施設の運営につながる大きなきっかけとなりました。

そのグループホームはカラオケボックスから事業転換したということで、ベンチマークのために訪問しました。実はグループホームに足を踏み入れたことも、認知症の方々に会うのもこれが初めてだったのですが、入った瞬間に、施設の中に流れる空気感にすごく感動したんです。

当時の体験は言葉では形容し難いのですが、「認知症の人たちを支える、こんなにあったかい場があるんだ。こんな素晴らしい仕事があるんだ」って感動して。私の魂にフィットしたような感覚があって、直感的に「自分もこの中に参加したい、この仕事がしたい」と思ったんです。

そこからは早かったですね。中小企業家同友会の例会や勉強会などで会う人たちに「グループホームがやりたい中原です」と言って挨拶して回っていたら、施設の運営者を探しているという方に出会ったんです。現在は公募で運営者が決まりますが、当時はまだ届出制だったので、未経験でしたが気概を買っていただき、初めてのグループホームの運営をスタートさせました。

運命的な出会いを果たしたのですね。
その後は順調に進んでいったのですか?

この出会いは本当にありがたかったのですが、同時に立ち上げのときにはすごく大きな失敗も経験したんです。

運営を任せていただけるというお話から8ヶ月後にグループホーム「きらめき」がオープンしたのですが、福祉事業の経験はまったくなかったので、そういったノウハウがあるという方に経営コンサルをお願いしました。ただ、今振り返れば、当時の私は半ば依存状態にあり、その人に任せてさえおけば集客も運営も順調に進むと思っていたので、内容をしっかり確認せず契約書にサインしてしまって。

でも、蓋を開けてみると、コンサルは集客も運営もしない。だから、オープンから一か月経っても利用者はほぼゼロ。結果的には自分で病院などに営業に回ってなんとか利用者の方を紹介してもらいましたが、それでも月に1名来るかどうかという状況で、大変苦労しました。

そこで学んだのは、どんなにわからないことでも経営者は全体像を把握しておく必要があること。そして、最初は自分が動かないと何事もうまくいかないということですね。これは、ぜひこれから起業する皆さんに伝えたいことの一つです。

ー 大変なご経験をされたのですね。一方で、当時の失敗や未経験での業界参入というご経験が今に生きていると感じることもありますか?

たくさんありますね。一つは「重度の認知症の方は「きらめき」さんにお願いすれば安心」という立ち位置ができたことです。

新しい施設だったので、運営当初は、他の施設では受け入れが難しい重度の認知症の方をご紹介いただくことが多かったんです。でも、私は他の施設や認知症の度合いについて何かと比べるほどの経験がなかったので、それが普通なのだと思って全力で対応していました。

それが利用者の方々やそのご家族、ご紹介いただく施設の方々との信頼構築に繋がり、現在も「重度の方は「きらめき」さんに任せれば安心」という唯一無二の立ち位置で運営させていただいています。それはすごく良かったですね。

ー 他にも失敗から学んだことや、事業を行う上で課題に感じたことを教えて下さい。

私自身が優しすぎて人を育てられないリーダーだったことですね。私の場合は、親がすごく優しくて、失敗しない人生を歩みなさいという人だったので、スタッフに対しても「あなたができないことは私がやるから」というような、過干渉で過保護なリーダーになっていたんです。でも、それでは人も組織も育ちません。

そこで会社を組織化していく段階で、交流分析という心理学や脳の仕組みなどを勉強して、10年かけて自分のマインドと組織のあり方を変えていきました。具体的には自分の強みと弱み、課題を知って変えていくというアクションを取りました。

他にも私の場合は、人から指摘されると自分が否定されたように捉えてしまうところがあったんです。そのため介護経験豊富なスタッフからの指摘も素直に捉えられませんでした。でも、交流分析を通してそういった自分の特性を理解しトレーニングすることができたので、今ではスタッフからの指摘も素直に受け止められますし、指示を出して何かをお願いすることにも抵抗がなくなりました。

逆に、私にはない各スタッフの特徴を、社長の代わりにぜひやってほしいと伝えることで、みんなキラキラ輝き出すんです。人に頼られると人は育つということですね。

このようなマインドを変える経験を、私は「人生の脚本は書き換えられる」といっていて、弊社のOJTにも活用しています。スタッフもさまざまな悩みや課題を抱えているので、私の経験が仕事だけでなく人生に生きてくれたらいいなと思います。

素敵ですね。では女性ならではの壁を感じたことはありますか。

正直、私自身は女性だからという部分で生きづらさを感じたことも、事業を進めるうえで難しいと感じたこともあまりありません。ですが、以前福岡県で女性リーダーを育成する事業があり、その一環でデンマークに研修に行ったときに、日本と大きなギャップを感じたことがあって。町中で男性がベビーカーを押す姿が当たり前に見られたり、男女ともにしっかりと育休を取得していたりといった状況を目の当たりにして、こんな世界があることを知ったのと同時に、日本が遅れていることも実感しました。

また、自身は感じずとも、スタッフの中にはそういった人もいるのではないかと思えたことで、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の社内推進を行っています。具体的には定年の引き上げや、子どもおよび孫の同伴出勤、海外からの実習生や留学生、60年代以上の方や障がいのある方、うつ病の方やガンと闘病中の方など、文字どおり「すべての人」の就業を受け入れています。

もともと私がグループホームを手掛けようと思ったのは、過去に認知症の方々を社会から隠そうとする時代の流れに対して、人間らしい暮らしができないのはおかしいという気持ちが根底にあったからです。時代は変わり、「きらめき」には発達障害やさまざまな特徴を抱えて同じようにつらい思いをしている人、また、その家族の方々が自然と集まって、生き生きと働くためのきっかけの場になっていると感じます。実際にインターンシップで来た学生からは「福祉のイメージが変わった」と言われます。

私自身、みんなの強みが生かせる組織がいいなと思っていたのですごく嬉しいですし、こうした取り組みが2022年、2023年、2024年と3期連続の“健康経営優良法人(中小規模法人部門)ブライト500”の認定につながっているのだと思います。

ー ありがとうございます。
最後に、これから起業・創業を考えている”女性”へ伝えたいことはありますか

「運転席に座ろう」と伝えたいです。これは「バッターボックスに立とう」というのと同じ意味合いで、女性経営者全国交流会の女性部のトップの方がいつも使う言葉です。男性が先頭に立ち、女性がその補佐をするということがまだまだ多い社会ですが、恐れずにまずは運転席に座ること。そこで失敗しても死ぬわけじゃないから、どんどんチャレンジを続けてほしいと思います。


グループホームに対する熱い思いを胸に突き進んできた中原氏。その思いは、どんな方にとっても働きやすい会社と社会の創造につながっていくのではないでしょうか。

Bloom福岡では、中原氏をはじめとした女性の先輩起業家との交流も図ることができるなど、本気で起業したい皆さんをサポートする仕組みを整えております。気になる方はぜひLINE公式アカウントを友だち登録し、参加してみてください。

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■会社概要
会社名:株式会社プロデュース
URL:https://www.pro-kirameki.com
所在地:福岡県北九州市八幡西区本城東1丁目11-27
設立:2000年
代表:中原亜希子

■事業内容
・高齢者向け介護支援施設運営事業

■問い合わせ先
Mail:会社HPよりお問い合わせ(https://web.gogo.jp/kirameki/form/contact)
Tel:093‐695‐3850

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